こいつは春から縁起がいい! 新春あんこ寄席
佐賀には夜中しか開店しないアヤシイあんこ屋がある。
店名を「夜のあんこ屋 よなよなあん工房」といい、夕方、FACEBOOKで開店時間が告知される。最近23時より早く開店する日は……ほぼ無い。にも関わらず、開店前に行列ができるのだ。
どうしてこんな時間に店をやっているのか? あんこ愛あふれる店主は、昼間サラリーマンとして仕事を持っている上に、一人でこの店を切り盛りしているのだ。
丁寧に贅沢に作られたぜんざいを、夜中にいただく。
「こんな時間に甘いものを食べる」
ぜんざいの美味しさに加えて、ちょっとした罪悪感がスパイスになる。
そんなよなよなあん工房と、落語家の林家あんこさんのコラボイベントが開催された。場所は「木と本」というカフェ。ロングステイOKで、リラックスできる大好きなカフェだ。
好きな場所で、好きなあんこを食べながら、好きな落語を聴く。
もう、私にとっては夢のような企画だ。
FACEBOOKで告知を見たとき、夜中にベッドの上で「バンザイ!」と小躍りしたのは、言うまでもない。
迎えた新春あんこ寄席の日。まだ松の内の1月5日。
18時からの30分はぜんざい食べ放題タイム。そうそう、これこれ! このやさしい甘さと、小豆の香り! この後、あんこスィーツプレートが準備されているので、ほどほどにしなければ……。
いったんぜんざいは撤収されて、林家あんこさんが登場!小豆色の着物を着た、二つ目の女流噺家さんだ。ホールと違ってカフェの寄席は、噺家さんとの距離が近いのが嬉しい。
演目に入る前の話を「まくら」と呼ぶが、今回は初心者でもわかる「落語のいろは」を話された。扇子と手拭いを使って様々な情景を表すが、それを説明する時の手の美しさ! 演目「初天神」に登場する子供も愛らしく、女性らしさ、女性の柔らかさを感じた落語だった。
その後はあんこスィーツの時間だったのだが……。準備が間に合わず、林家あんこさんが再登場。林家一門の話題など、めったに聞けないことを話して間を持たせるというハプニング。こちらにとってはおいしいハプニングだった。
30分近く遅れて「あんこスィーツプレート」が全員に配られた。1枚に盛られたスィーツは……
「スフレ風あんこチーズケーキ」
「おからパウダー入りブラウニー あんこ添え」
「クリームチーズとあんこのカナッペ」
「あんこと赤米餅入りゴマプリン」
あんこはどんな物とも合う。そんな懐の深さを感じるスィーツだ。そう、「あんこ=和」だけではないのだ。
美味しいものを楽しんだ後は、よなよなさんと林家あんこさんのトークセッション。
飄々とした雰囲気のよなよなさん。その雰囲気を受けながら、笑いを引き出すあんこさん。
「最初、依頼のメールが来たとき、何かアヤシイ人かと思ったんですよ。夜しかやってないあんこ屋ですよ? 怪しくないですか?」
「あんこが出てくる落語とか無いかな? って思って検索したら、『林家あんこ』って出てきて……。それからずーっとチェックしてました」
「えーっ! 2年も前からネットストーキングされてたんですか?」
(会場爆笑)
「よなよなさん、ちょっと小噺をやってみませんか?」
「次回は、ぼくも落語に挑戦しようかな?」
「高座に上げるかどうかは、私の判断ですからね」
(再び爆笑)
林家あんこさんの2席目は「代脈」
ちょっとお間抜けな新米医者が登場する演目。落語には「ちょっとダメな人」が登場するが、そのダメさ加減が憎めないというか、他人事ではないというか……。笑いながらも、ちょっぴり共感したあとに、またまたサプライズ!
「あ、さて、さて、さては南京玉すだれ♪」
全員の手拍子に合わせて、林家あんこさんが南京玉すだれを披露。まだ練習中という事で、観ている方にもちょっぴりドキドキが伝わってきたが、それはご愛嬌。
最後によなよなさんが挨拶。
「私自身がこのようなイベントを企画開催するのは初めてでした。30人分のスィーツを一度に作ったのも初めて。いろいろなハプニングがありましたが、皆さんに助けられてなんとかイベントを終えることができました。初物尽くしで大変でしたが、やってみてわかった事もたくさんあり、次回はもっとスマートにやれる感触が得られたのは収穫でした」
落語の魅力は、噺家と観客が作るその場の空気感が大切だと思う。食事も、その場の雰囲気でより美味しくなるし、その逆もある。小さなカフェでたった30人の観客のために開催される寄席。それはものすごく贅沢な時間だった。企画開催してくれたよなよなさん、本当にありがとう。しかも……
落語とあんこ。人の笑顔を引き出す最強タッグが、また楽しめるらしい。今年もいい一年になりそうだ。